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No.505 高見順

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「傷ついたのは、生きたからである」

– 高見順(小説家)–

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穴に落ちてしまいました。
どんなふうにして落ちたのかは、よく覚えていません。
突然、足元が崩れたようにも思えます。
気がつくと、ほの暗く、冷たい穴の底にいたのです。

身体のあちこちが痛みます。
落ちたときに、どこかを怪我してしまったのかも知れません。
今は、ただ、穴の底に横たわっているのです。

しばらく、自分がどうして穴に落ちたのか、何があったのか、どんな原因で落ちることになったのかを、思いだそうとしてみました。

でも、気づきました。
いくらそんなことに思いを巡らせていても、何の意味もない。
今は、どうすれば、この穴から出ることができるのかを、見つけることが肝心だ。

ずいぶん、時間を無駄にしてしまったような気がします。
横になったままで見上げると、穴の出口はとても遠くにあるように見えます。
とても、あそこまで登っていくことなど、できそうもありません。

穴に落ちたときに負った怪我が、大きいとしたら、大声を出してで助けを求めた方がいいのでしょうか。
それとも、しばらくじっと休んで、体力が回復するのを待って、少しでも穴から、脱出する努力をするべきでしょうか。
横たわった状態では、壁の様子がよく見えず、登っていけるかどうかはわかりません。

そうしているうちに、ふと、底に近いところに、横穴があるのが見えました。
あそこなら、何とか這いながら入っていけそうです。
でも、横穴のなかは、尖った岩がたくさん突き出ているようです。
それに、もっと深いところへ通じていそうで、さらに悪い状況に落ち込んでしまいそうにも思えます。

だけど、穴から出るためには、その横穴に入るしかないような気がします。
そこに入ると取り返しがきかないとわかっていながら、この状況から逃れるために、思わず引き込まれていきそうになるのです。

……どうしようか迷っているうちに、少し痛みが和らいできたので、少しずつ身体を起こしてみようとしました。
とても辛かったのですが、どうにか座る姿勢を取ることができました。
すると、今まで見えなかったことも、僅かずつ、見えはじめてきたのです。

穴は、思ったよりも高くないこと、そして、壁の少し上方には、手がかり足がかりになりそうな岩が、連なっていることなどです。

がんばれば、何とか登っていけそうだ!
少し、希望が湧いてきました。
もちろん、身体が言うことを聞かないので、思うように起きあがることは、なかなかできません。
途中で、辛くなって、何度も、もうあきらめてしまおうという気持ちが湧いてきます。

それでも、ただ、この苦しい穴から出るために、ゆっくりと自分のできるペースで、立ち上がろうとし続けました。
時間はかかりましたが、ついに立つことができたのです。
あとは、岩に足をかけて、壁をよじ登って行くだけです。

まだ、先はありますが、ここまで来れば、もう大丈夫でしょう。
それに、穴の外からは、かすかに人の声も聞こえてきます。
気づかなかったけれど、意外に近くに誰かがいるようで、いざとなったら、叫んで助けを呼ぶこともできそうです。

穴から出たら、今後、同じ過ちを繰り返さないために、どうして穴に落ちたのかを振り返ってみたいと思っています。

そして、この経験から、自分が学んだことを、もう一度、噛みしめて、もう一回り大きくなりたいものだと考えています。
悩んだり、傷ついたり、落ち込んだりするのは、穴に落ちたようなものなのかも知れません。

立ち直って、さらに大きくなるというのは、こんなことではないでしょうか。
生きているんだもの、ときには、穴に落ちることもあるでしょう。

だけど、外へ出るための道は、必ずあるのですよね。

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プロフィール
大阪在住のライターです。
メルマガや超短編なども書いています。
慢性腎不全のため減塩生活中……

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