No.718 レイ・ブラッドベリ

No.718 レイ・ブラッドベリ

西尾和美の アダルトチルドレン 癒しと回復のためのセルフスタディキット

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「安全を求めない生き方とは、崖から飛び降りて、落ちていきながら翼をつくる生き方である」

– レイ・ブラッドベリ(アメリカの作家)–

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まだ勤め人だった頃、職場に入って数年たち、それなりに経験も積み、そろそろ後輩の指導も担当しなければならない立場になったときのことです。

私は、もともと引っ込み思案で、優柔不断です。
とても自分には若手を引っ張っていくような力などないと不安を感じました。
しかし当時は、仕事でもっと上を目指していましたから、いつかはリーダー的な役割を与えられることも覚悟せざるを得ません。

だから、自分の性格を何とかしたいと思って、とあるビジネスセミナーに参加してみることにしました。
ビジネスセミナーといっても、スキルアップや知識を身につけるというよりは、メンタルな部分、つまり心構えや意欲を高め、自分発見もしてみようというのが主なテーマだったと思います。

2日間の日程でしたが、まさに自分にピッタリな内容だと意気込んで参加したのでした。
参加者は30人ほどで、スーツ姿の人がほとんどです。
かなり遠くから来ている人も多く、3割くらいが女性の方でした。

さて、はじめの講義でいろいろな参考になるお話を聞いて、何となく、私にもリーダーシップを持てるような気になってきたところです。

「今から、5人ずつのグループに分かれてください」
講師の方が指示を出します。

この後のスケジュールでは、グループ単位で話し合ったり体験実習をすることが多くなるということです。
私が入ったのは、女性がふたりで、みんな30歳前後のだいたい同年代の方ばかりでした。

まず、グループのリーダーを決めることになりました。
話を聞いていると、リーダーにはかなり大きな役割と責任が与えられそうですので、誰がふさわしいだろうと、グループのみんなを見回して見ます。
人のよさそうなサラリーマン風の男の人、場違いなGパン姿の落ち着きのないお兄さん、おとなしそうなOLさん。

そのなかに、ひときわ目立つ女性がいました。
いかにも仕事の出来そうなキャリアウーマンといった感じで、背も高く、シャンとしていて、自信に満ちた顔をしています。
何か独特のオーラが出ていて、輝いているような雰囲気でした。
自ら立候補する人もいませんでしたし、グループのみんなも、何となくその人がリーダーにふさわしいだろうとごく自然に話がまとまっていきました。

もちろん私にも異存のあろうはずもありません。
はじめはためらっていた、その女性も、「では、私がリーダーをやらせていただきます」と笑顔を見せてくれたのです。

……1日目は、そのリーダーの元、いくつかの実習や活動をうまくやり終えました。

そして、二日目。
この日は、グループ単位ではなく、全員が集まり、ひとりひとりの問題や改善テーマを見ていくことからはじまりました。

ひとりが前に出て、講師を含む全員で、アドバイスや気になったところ等を話し合うのです。

何人目かに、私のグループの女性リーダーが登場しました。
はじめは、思ったとおり、初日のリーダーとしての体験を誇らしげに語っていました。

ところが、彼女は突然声に詰まり、うつむいて嗚咽を漏らしはじめたのです。
その場にいた全員、特に我々のグループは、とても驚きショックを受けましたが、やがて彼女は、こんなことを話しはじめました。

彼女がこのセミナーに参加した最大の目的は、なぜかいつも、大きな責任や仕事を頼まれ、必死になってこなさなくてはならない羽目になってしまう自分を変えたい、ということだったのです。

本当の自分はもっと気楽で仲間とワイワイ楽しみたいのに、知らぬ間にリーダー的な立場になり、いつも肩肘張って生きていかなくてはならない。
それをどうにかしたかったのに、気がつくと、この場でも同じことをやってしまっていることに気づいたというのです。

当時の私にとっては、うらやましくなるような悩みでしたが、彼女にとっては深刻だったようで、最後には泣き崩れてしまいました。
具体的なことは書けませんが、みんなでのサポートで彼女は立ち直り、これからは「もっと自分らしく楽に生きる」という宣言をして晴れやかな顔になって席に戻ってきました。

私は、人の悩みとは意外なものだと思ったり、彼女ひとりに責任を押し付けていた自分を反省したりしながら、自分の番を待ちました。
そして、前に立ち、「私はリーダーシップを身につけたくて参加しました」と勇気をふり絞って語ったのです。

すると、誰かがこう言いました。
「じゃあ、当然、グループのリーダーに立候補したのですね。
それでもリーダーになっていないのは、何が理由だと思いますか?」

そのとき私は、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けました。
そう、私は立候補などしていなかったし、自分が立候補するなど想像だにしていなかったのです。

リーダーになるという目標を持ってセミナーに参加しながら、リーダーに立候補するどころか、その場になると、誰がリーダーにふさわしいかなどと、他人事のように考えてしまっていたのです。

こんな格好の場を与えられながら、リーダーとして活躍している自分を想像すらできていないのですから、今のままではとてもリーダーなどにはなれないでしょう。

私は、もう言葉もなく、ただ呆然と立ち尽くすしかありませんでした……

……今でも、ときどき、そのときの映像が頭に浮かんできます。

何かをはじめるのなら、「今」この場所ではじめる。
自分を変えたいと思ったら、「今」変わると決める。

思っていることをやるのに最適なのは、「今」
夢を叶えるときは、「今」

今! 今! たった今!

わかってはいるのですが、こころと身体がなかなか動かないとき。
あのときのことを思い出して、少しでも前に進む努力をしています。
(思うようにいかないときの方が多いですが……)

そう……
ときには、崖から飛び降りてから翼を作りはじめる生き方を選ぶ瞬間があってもいいのですよね。



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プロフィール
大阪在住のライターです。
メルマガや超短編なども書いています。
慢性腎不全のため減塩生活中……

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