No.509 ホイットマン

No.509 ホイットマン

西尾和美の アダルトチルドレン 癒しと回復のためのセルフスタディキット

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「自分というものがある。
あるがままで十分だ」

– ホイットマン(アメリカの詩人)–
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そのリンゴ園のリンゴの木たちは、気持ちよさそうに太陽をいっぱいに浴びていました。

今年も、花をたくさん咲かせて、美味しい実をつけようと願っているのです。
リンゴの木たちは、小鳥や人間に、自分の実を食べてよろこんでもらえることを、何よりの楽しみにしていたのでした。

ところが、1本のリンゴの木だけが、どうも元気がないように見えます。

そのリンゴの木のことが気になったのか、一羽の小鳥が飛んできて、枝にとまって、声をかけました。
「リンゴの木さん、どうしたのですか?
今年も、美味しい実を食べさせて頂くのを楽しみにしていますよ」

リンゴの木は、小さな声で返事をしました。
「ああ、小鳥さん……
私は、自分の実に、どうしても自信が持てないのだ。
他の木のように、大きくて立派な実をつけることができないし、味だって
劣っているような気がする」

「いいえ、そんなことはありませんよ。
毎年、このリンゴ園の、いろいろな木のリンゴを食べさせていただいてい
ますが、あなたの実だって、いつも他の木に負けないくらい美味しいです
よ」

小鳥が言っても、リンゴの木は、ため息をつくだけです。
「いや、どうも私はダメなようだ。
きっと、この場所が良くないんだろう。他のところよりも、養分が少ない
土地なのかも知れない。
それとも、種のとき、根を張るのが少しばかり遅かったせいだとも考えら
れる。

芽を出そうとしたら、地面に小石があって、苦労したものだ。
そういえば、私が芽を出した年は、雨が少なくて猛暑が続いていたようだ
し、枝を伸ばす位置も、少し間違っていたのだろうか……
私は、毎日、そんなことを考えているんだよ」

「リンゴの木さん、あなたの実が、他のリンゴの実と違っているとしたら、
きっと、それは、昔の苦い思いが、入ってしまっているからでしょう。
過ぎたことは、どれだけ苦しくても、辛くても、それはもう終わったこと。
私たちの思い出のなかにしかないもの。

昔のことが、「今」を作っているのではなくて、「今」あなたが何を思う
かということこそが、「今」も「昔」もつくっているのですよ。
あなたは、もう種ではありませんし、芽だけの存在でもありません。

種の時に芽を目指したように、芽を出したときに、リンゴの木になるため
に成長していったように、ただ前に向かうことが、実を実らせるのです。
私たちが、生きることができるのは、「今」だけ。

そして、「今」をどう生きるかが、どんな果実を実らせるのかを決めてい
るのでしょうね。

きっと、あなたらしい、リンゴの実が、一番美味しいでしょうね。
今年も、ステキなリンゴを、楽しみにしていますよ」
優しくそう言うと、小鳥は、リンゴの木の枝から、飛び立ちました。
うれしそうに囀りながら、自分の「今」を、もっと楽しむために。

過ぎたことは、もう終わったこと……
「今」をどう生きるかで、どんな実になるかが決まる……

リンゴの木は、少しの間、考え込んでいるようでしたが、やがて、枝をブルッとふるわせて、胸を張りました。

さっきとは、別の木のように元気になっています。
気がつけば、ここは、とってもすばらしいリンゴ園。

気候の良い豊かな土地に、日は降り注ぎ、小鳥たちが、幸せそうに歌っています。

「もっと、今を楽しもう」
リンゴの木は、そんな独り言を口にしました。

今年も、きっと美味しいリンゴが、たくさん食べられるでしょう。



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プロフィール
大阪在住のライターです。
メルマガや超短編なども書いています。
慢性腎不全のため減塩生活中……

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